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2001.7.20
猿の惑星
勤務先の編集担当からもらった招待券で、行ってきました。
猿の惑星。
開場30分以上前についたというのに長蛇の列。さすがは 今夏最大の話題作!期待度もトップクラスでしょう。
観覧後の満足度までは責任持てませんけどね。
さて、映画にさして詳しくない方でも猿の惑星という映画がどれだけすごい映画だったかはご存じかと思います(私も詳しくない部類に入りますが)。この映画史に燦然と輝く名作中の名作を、「バットマン」のティム・バートンによる、続編でもリメイクでもなく「リ・イマジネーション」と銘打っての新作となると、とかく酷評を受けがちな続編・リメイク作品とはいえ期待するなというほうが無理です。ま、結果としてはB級映画「マーズアタック」のティム・バートンだったわけですが。
いえね、実はオープニングからイヤな予感はしてたんです。
絵的にちっとも面白くなかったから。
う〜ん、何かいまいち臭いなあと思ってたら、いまいちどころじゃありませんでした。
リビルド失敗してんぞ、これ。
前作「猿の惑星(以降、前作)」では、人間と猿との立場が完全に逆転しており、人間は文化どころか知恵も言葉も持たない文字通りの獣、「毛のない猿」でした。そのカルチャーギャップがとても面白かったのですが、本作では、猿と人間で言葉が通じる(つーかコミュニケーションも現代人どうしそのまんま)、人間は馬には乗る、道具を使って武器を作ると、高い知恵を持っています。…そのくせリーダーもいない、組織も無い。
いえ、それはいいんですよ、そういうのもアリだと思います。
でもね、それでもなお冒頭で出てくる人間は全く喋らなかったり、人間狩りでつかまえた人間を運ぶ護送車を引くのは人間。猿たちは「果樹園を荒らしたのは人間だ」「人間が増えすぎて困る」「ヤツらは下半身の生き物」「我々並の知恵などあるはずがない」と、人間を獣扱いしているのは前作と全く変わりありません。
矛盾してるよなあ、やっぱり。
前作では天と地ほどあった立場の差が、本作ではせいぜい江戸末期の開国当時、日本と欧米諸国との差くらいにしか感じられません。世界観の設定がつめきれていないのでしょうか。
また、主人公が持ち出した銃を発射するシーンがあるんですが、この星の猿も人間も火薬すら見るのは初めてのはずなのに、火薬どころでない一撃で大木がふっ飛んでも、一瞬びっくりするだけでぜんぜんビビりやがりません。普通なら腰を抜かしてもいいようなイベントもわりと平然と受け流してやがります。どうなってんだこの星の住民は。え?この星って未来の地球なんだろうって?いや、未来は未来なのですが、劇中ではこの星の正体には全く触れられていません。大ラスでいちおうそういう事になっているみたい…と言うか、そうでないと話がつながらない…なのですが、それでもなお先程の結末からはめいっぱい矛盾しているため、結局の所よくわかりません。
また、ビジュアル的にもどうにもいけていません。
猿の惑星ですから、当然猿がたくさんでてきます。当然出演者はすべてスペシャルメイクで登場するわけです。いや、オスというか、男はいいんです。問題は女。
まゆ毛バッチリ、アイラインもくっきりと。猿と人間を足して2で割ったような、顔の上半分が人間で下半分が猿という気味の悪い造形になっており、ストーリーへの没入を疎外します。行動はときおり思い出したように猿そのものになったりするのですが、剣やナイフなど武器を器用に扱えるくせに、突撃シーンはなぜか四つん這いで走りますし(武器は!?)。なんかちぐはぐなんですよね。
前作自体、当時としては最先端のスペシャルメイクや合成をしておりましたから、いまの技術でフツウにリメイクしても新鮮味は全くありません。むしろ最先端からは若干遅れ気味となると以下略。
シナリオはというとこれがまた平凡そのもの。
全体としては悪くはないのですが、特別面白いといワケでもありまん。ただ、説明不足というか、「どこでどうやってそんなはなしになって、なんでおまえらここがわかるんだ」「そこでそいつが登場したら、あの話とこの話はどっからでてきたんだ」「そんな話聞いてないぞ、ちうかいま初めて聞いたわい」「さっきああなってこうなったあいつが、なんでああなってこうなるんだ」等々、そこら中にご都合と矛盾を残したまま話が進むので困ります。まあ、困るっても追いかけられなくなるほど難解なストーリーでもないので、「あ、矛盾してるやん」でほおって置けばOKというあたりがいとおかし。
この矛盾とご都合はラストの交通事故(大気圏突入で自由落下、無制動で不時着しても交通事故程度の損傷)でピークを迎え、すべてをぶち壊すあんまりな展開でジ・エンドとなります(ま、ここまでのプロセスにしても相当変ですが)。
パンフレットやチラシに5人ほど写真レイアウトしてあります。前の4人はストーリーに大きく関わってきますが、最後の一人はいなくても全く差し支えありません。目の保養のつもりだったのでしょうか。あと間違ってるかもしれませんが、劇中で主人公が名前を呼ばれるのは1回だけというのも前代未聞。「レオって誰???あ、お前レオだったのか」
結局、世界観の不統一と練り込み不足による説明不足で疑問と矛盾だらけになったシナリオ、淡白というよりは世界をシミュレートできていない演出…どこをどう切り取っても「猿の惑星」の名を冠するには不完全な作品としか言いようのないものになっておりました。
「猿の惑星」という先入観をとっ払っても、評価は低いと思います。エンドロールが始まった途端、ほぼ満席の観客の半分以上が席を立ちましたから。面白い映画だったかどうかは、押し黙って歩くペアやグループを見ればわかります。「おもしろかったね」「よかったね」という言葉は、会場を出るまで一度も聞くことはありませんでした。期待せずに行ったオレですらこんな調子なんだから、期待して行った人の心中は察するに余りあるものがあります。
監督ティム・バートンは「前作から持ち込んだのは猿と人間の立場が逆転していることだけだ」とおっしゃってるようですが、それだけは間違いありません。ちうか、それ以外はことごとく間違ってるんですから。